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東京地方裁判所 昭和64年(ワ)34号 判決

原告 奥井聡太郎

原告 小網裕司

右二名訴訟代理人弁護士 酒井亨

被告 霞ヶ浦開発企業株式会社

右代表者代表取締役 劉介宙

右訴訟代理人弁護士 大西保

主文

一、被告は、原告奥井聡太郎に対し、霞ヶ浦国際カントリークラブの個人正会員権(会員証番号・第一四九号)につき、同原告への名義書換えをせよ。

二、被告は、原告小網裕司に対し、霞ヶ浦国際カントリークラブの個人正会員権(会員証番号・第一四三号)につき、同原告への名義書換えをせよ。

三、訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文と同趣旨

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告らの請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 被告は、霞ヶ浦国際カントリークラブと称するゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営する株式会社である。

2.(1) 訴外田辺洋一(以下「訴外田辺」という。)は、昭和三五年六月一〇日、入会金五万円及び保証金二五万円を支払った上、被告との間で、右クラブへの入会契約を締結し、その会員としての地位(会員証番号・第一四九号、以下、これを「本件会員権(1)」という。)を取得した。

(2) 原告奥井聡太郎「以下「原告奥井」という。)は、昭和四〇年八月二五日、訴外田辺から本件会員権(1)の譲渡を受けた。

(3) 訴外田辺は、昭和六三年四月一九日、被告に対し、郵便にて、本件会員権(1)を原告奥井に譲渡した旨の通知をした。

3.(1) 訴外椙本正義(以下「訴外椙本」という。)は、昭和三五年二月一九日、入会金五万円及び保証金二五万円を支払った上、被告との間で右クラブへの入会契約を締結し、その会員としての地位(会員証番号・第一四三号、以下「本件会員権(2)」という。)を取得した。

(2) 訴外小網宝作(以下「訴外宝作」という。)は、昭和三六年一一月二九日、訴外椙本から本件会員権(2)の譲渡を受け、被告は、そのころ、この譲渡を承認した。

(3) 訴外宝作は、昭和五五年一月一〇日に死亡した。

(4) 昭和五五年四月二〇日、訴外宝作の相続人の間で、原告小網裕司(以下「原告小網」という。)が本件会員権(2)を相続する旨の遺産分割協議が成立した。

(5) 被告の定めた「霞ヶ浦ゴルフコース規則」(甲第二号証、以下「被告会則」という。)には、個人正会員が死亡した場合には、その相続人は個人正会員となる権利を有する旨規定されている。

4. よって、原告らは、被告に対し、それぞれ取得した本件会員権(1)、(2)につき各原告への名義書換えをすることを求める。

二、請求原因に対する認否

1. 第1項の事実は、認める。

2.(1) 第2項(1)の事実は、認める。

(2) 同項(2)の事実は、知らない。

(3) 同項(3)の事実は、認める。

3.(1) 第3項(1)ないし(3)の事実は、認める。

(2) 同項(4)の事実は、知らない。

(3) 同項(5)の事実は、認める。

4. 第4項は、争う。

三、抗弁

1. 訴外田辺及び訴外椙本は、被告との間で被告が定める霞ヶ浦カントリークラブ規定を遵守することを約して本件各入会契約を締結し、被告は、その規定として被告会則を定め、昭和三四年九月一〇日の本件ゴルフ場オープンの時から、これを適用してきた。

2. 訴外田辺及び訴外小網は、昭和四〇年ころから、年会費を支払ったことがなかったのであるから、本件会員権(1)、(2)を放棄したものというべきである。

3.(1) 被告会則第七条は、会員資格の変更(会員権の譲渡)には役員会の承認を要する旨定めている。

(2) 被告は、原告奥井につき、本件会員権(1)の取得(会員資格の変更)の承認を拒絶する。

(3) 右拒絶の理由は、次のとおりである。

①  本件ゴルフ場は、会員制ゴルフクラブとすることを前提として開設したものであるが、応募者は予定の一割にも満たない数しかなく(個人会員五八名、法人会員五九口)、また、会員となった者の利用も少なかったため、会員制ゴルフクラブとして本件ゴルフ場を維持経営することは不可能となった。そこで、被告は、本件ゴルフ場をパブリック制のゴルフ場として経営せざるを得なくなったが、そのためには、預託金会員制の優先的利用権を有するメンバーの存在は、経営上、支障となるに至った。

②  そこで、被告は、昭和四四年ころから年一万二〇〇〇円の年会費の徴収を取り止め、純然たるパブリック制に移行するため設立当初の入会者に対し話合いにより退会を要請し、預かり保証金も順次返還することとした。その結果、現時点では、個人正会員は、一〇名、法人会員は四口となっている。なお、被告は、退会した会員に対しては、退会後も従来のメンバーフィーで本件ゴルフ場を利用することを認めてきた。

③(a)  被告の役員会は、右のような事情変更が生じたため、昭和四七年七月五日、以後、会員権の譲渡を承認しない旨決定した。

(b)  被告の会則第四〇条には、役員会において会則の変更をすることができる旨規定されているので、右のような譲渡禁止は、有効である。

4.(1) 被告の会則第八条には、会員が死亡したときは、その相続人において会員となる権利を有する旨規定するとともに、会員死亡後、三箇月以内に入会申込書によって申し込み、所定の入会金を納入することを要する旨規定している。

(2) しかるに、原告小網は、昭和五八年六月に至って初めて相続による資格承継を主張するに至ったものである。

(3) したがって、原告小網は、もはや会員となる権利を有していない。

四、抗弁に対する認否

1. 第1項の事実は、認める。

2. 第2項の事実は、そのうち本件各会員権につき年会費の支払がなされなかったことは認めるが、会員権を放棄したことは否認する。

3.(1) 第3項(1)の事実は、認める。

(2) 同項(3)は、争う。ゴルフ会員権は、その性質上、自由に譲渡できるものであって、被告においてその譲渡性を一方的に奪うことはできない。仮に、ゴルフ会員権に一般的な譲渡性がないとしても、被告は、本件各入会契約において、自由な譲渡を認めている。

4.(1) 第4項(1)の事実は、認める。しかし、現行の相続法の下では、法定相続人による共同相続が原則であり、遺産分割の協議が整わなければ、会員権の承継人が決まらない。したがって、被告の会則は、一般的に不可能なことを定めていることになり、その限度で無効というべきである。

(2) 同項(2)の事実は、否認する。原告小網は、昭和五五年五月ころ、被告に対し電話で名義書換えの方法を尋ねたが、被告から後で連絡する旨の回答を得たので、そのまま放置していたものである。

(3) 同項(3)は、争う。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、請求の原因第1項の事実は、当事者間に争いはない。

二、1. 請求の原因第2項(1)の事実は、当事者間に争いはない。

2. 〈証拠〉よると、請求の原因第2項(2)、(3)の事実を認めることができる。

三、1. 請求の原因第3項(1)ないし(3)の事実は、当事者間に争いがない。

2. 〈証拠〉を総合すると、請求の原因第3項(4)の事実を、認めることができる。

3. 請求の原因第3項(5)の事実は、当事者間に争いはない。

四、そこで、次に抗弁につき判断する。

1. 抗弁第1項の事実は、当事者間に争いはない。

2. 抗弁第2項は、主張自体失当である(年会費を支払わなかったことから、本件各会員権が放棄されたものとすべき理由はない。)。

3. ところで、いわゆる預託金制のゴルフ会員権は、会員の側から見ると、預託金(保証金)返還請求権、ゴルフ場施設の優先的利用権及び年会費支払義務を中核とする契約(ゴルフ場施設の利用契約)上の地位であり、かつ、その入会に際し、資格審査が行われることから明らかなように入会者の人的特性が重要な要素をなす契約上の地位であるから、その譲渡については、特約のない限り、ゴルフ場経営者(本件においては被告)の承諾が必要であり、ゴルフ場経営者は、承認をするかどうかについて裁量権を有するものと解すべきである。

そこで、本件につき、この点を検討するに、〈証拠〉によると、本件各入会契約においては、会員権はこれを譲渡することができる旨合意されたが、同時に、被告の役員会の承認を得なければ、譲受人は会員資格を取得しない旨合意されたことが認められるので、本件各会員権については、特約により右に述べたゴルフ会員権の基本的性格が排除されたということはできない(すなわち、被告の承認がなければ、譲渡の効力は生じない。また、その承認をするかどうかについては、被告に一定の裁量権がある。)。しかし、右各証拠によると、被告は、本件ゴルフ場開設当初は、特に問題のある者以外は原則として入会を認め、また、譲渡の承認をしていたことが認められるので、当時の事情からすれば、原告奥井に特に問題がある場合を除き、被告において譲渡の承認(資格変更の承認)を拒絶することは裁量権の濫用に当たり許されないというべきである(不当に拒絶したときは、承認があったものとして取り扱うべきことになる。)。

もっとも、〈証拠〉を総合すると、抗弁第3項(3)①ないし③の事実を認めることができ、これらの事実、特に、本件ゴルフ場については、本件各入会契約の締結当時に前提とされた預託金会員制のゴルフ場としての運営が不可能となっていること、預託金の据置期間一〇年(甲第五号証による。)は昭和四五年ころに経過し、会員において何時でもその返還を求めることができる状態になっていること、各会員は、本件ゴルフ場の開設時から今日まで、十分にその権利を行使する機会を与えられていたこと、また、各会員は、長期にわたり年会費の支払義務を免除されていたことなどを考慮すると、一般的に述べるならば、事情変更の結果、現時点においては、被告において、右のような事情を根拠として譲渡の承認を拒絶することは、その裁量の範囲内にあるといえる(被告会則第四〇条は被告の役員会において会則の変更をすることを認めているが、会則を変更して譲渡を一律に禁止することは、入会契約の基本的部分の変更に当たり、許されない。)。

しかしながら、前示のように、原告奥井が本件会員権(1)を取得したのは、昭和四〇年であって、その時点で原告奥井から譲渡の承認請求があれば、被告においてこれを拒絶することはできなかったものというべきであるから、原告奥井が名義書換え請求を懈怠していたことが被告に対し特に不利益をもたらさない本件においては(被告は年会費の支払を免除していたのであるから、原告奥井の名義書換えが遅れたことによってなんら損失を受けていない。)、本件会員権(1)の訴外田辺から原告奥井に対する譲渡に限っては、被告は、現時点においても承認を拒絶することができないというべきである。

4.(1) 抗弁第4項(1)の事実は、当事者間に争いはない。

(2) しかしながら、相続開始後、三箇月以内に資格変更の手続を求めることは、遺産分割協議に要する期間を考慮すれば、相続人に事実上、不可能を強いることになるから、被告の会則第八条は、遺産分割協議が必要な場合のように、会員となる者が直ちに特定しない場合には、遺産分割協議の結果、会員権の相続人が入会申込みをすることができるようになった時から三箇月以内に入会の申込みをしなければならないとの趣旨に解するのが相当である(遺産分割の協議が整うまでの間も相続人において年会費の支払等、契約上の義務を履行しなければならないことは当然である。)。そこで、本件について、この点を検討するに、原告小網は、遺産分割の協議成立後三箇月内である昭和五五年五月ころ、被告に対して入会手続の方法について問い合わせをしたが、後刻回答する旨の返答を受け、そのまま放置したこと(弁論の全趣旨による。)、被告は原告小網が亡宝作の預託金(保証金)返還請求権を相続したものとして昭和五八年五月一六日に原告小網を被供託者として預託金(保証金)の供託をしたこと(成立に争いのない甲第一七号証による。)、被告は、昭和六三年六月二二日には原告小網に対し会員としての料金で本件ゴルフ場の使用を認めたこと(成立に争いのない甲第一八号証による。)からすると、被告は、原告小網が本件会員権(2)を相続し、入会の意思を有していることを知りながら、会員を存続させることに消極的姿勢をとっていたため、原告小網からの問い合わせに真剣に応答せず、原告小網が会則に従って入会手続をとる機会を失わせてしまったというべきである。したがって、信義則上、被告は、原告小網が会則第八条を遵守しなかったことをもって抗弁とすることはできないというべきである。

五、よって、原告らの請求はいずれも理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治)

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